いったんとまれ
「批判的思考 」
デジタルメディアリテラシー
について知ろう!
デジタルメディアリテラシーとは、「メディアリテラシー(※1)」と「デジタルリテラシー(※2)」を統合したものです。メディアメッセージはすべて構成されたものといえます。こうしたメッセージを読み解くには、批判的に考える力を育むことが大事です。批判的に考えるとは、非難することではありません。健全な懐疑心を持って論理的に考えること。端末やネット、メディア等を自身や社会のために活用できる善き使い手となるために、批判的に考え、責任をもってテクノロジーを使用して、学習、創造、参加する「デジタル・シティズンシップ(※3)」に基づいた行動について学んでいきましょう。
デジタル・シティズンシップ教育
デジタルシティズン(デジタル市民)とは、学び・創造・社会参加するために責任を持ってテクノロジーを使う人のことです。デジタル・シティズンシップ教育は、デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し参加する能力を育成します。ネット上に残り続ける情報の未来に渡る影響を意識して行動すること、ネットという公共の倫理、作法を意識し行動すること、創造者として責任を理解し行動することなどを学ぶ行動規範です。例えば、ネットいじめ、オンライントラブルの学習では、他者の味方、支持者になることを学ぶアップスタンダー教育を継続し行います。人権侵害や社会課題に向き合い行動する市民となるための能力やスキルを育成します。また、メディアバランスの学習では、長時間利用を防ぐための統一したルール(規則)を決めるのではなく、習慣的に使うデジタルメディアの価値や意義を踏まえた上で、自分の利用目的や利用時間と健康的な生活とのバランスを考えます。そして、個々の生活や目的に即したバランスの取れた利用のための約束を考えていきます。GIGAスクール構想の実現により、学校ではコンピュータ1人1台環境が整備され、児童生徒は日常的にデジタル端末を利活用するようになりました。利用時間は長くなりがちですが、規制に向かうのではなく、何のために使うのか、どのように生活に生かしていくのか、そしてどのような情報社会を創る担い手になりたいのか、自律し考え行動する力を育む学びが必要とされています。
それぞれが個別最適な学びを展開するための手段として、また社会への参加と社会課題解決のための手段として、デジタルメディアリテラシーは不可欠なものとなりました。これから紹介するチェック項目を参考に、信頼できる情報の見つけ方を学び、ネットいじめやトラブルに立ち向かう方法を理解していきましょう。
オンラインで行動するとき、「立ち止まる」ための手順と方法を学びます。インターネット上ではだれもが十分に考えることなく行動しがちです。行動するときは、「立ち止まる」「(どうすればいいか)考える」「(困ったときは)相談する」という3つのステップを意識しましょう。
善きデジタル市民となるための5つの資質
デジタル・シティズンシップで育成する良き市民となるための資質
落ち着いて内省する
- オンラインで立ち止まり自分の行動を省みることができる
- 自分の持つ思い込みを考えることができる
- 自分が当たり前に繰り返している習慣を振り返ることができる
- 不安、悲しいという自分の気持ちを確かめることができる
見通しを探求する
- 他の人の気持ちに気を配り、自身のモラル、市民としての責任(責任のリング)を考えることができる
事実と根拠を探す
- 複数の信頼できる情報源から情報を探して評価できる
- 情報の出どころや内容をよく確かめ、正しい情報かどうかを確かめることができる
可能な行動方針を想定する
- 自分や他の人への責任や影響を考えて、とるべき行動を考えることができる
- 自分の選択に自分の価値観や思い込みがどのように反映されているか検討できる
行動を起こす
- オンラインで前向きで生産的だと考える行動を決定することができる
- 健康や幸福をサポートするためのデジタル生活を見直すことができる
- 必要な時は助けを求めることができる
- 他者の味方、支持者になることができる
※上記の資質を発達させるための思考ルーチン
①今の感情を確認(悲しい、不安、怖い、心配または不快感がありますか。)
②原因を特定(その感情につながった原因は何ですか。それは、あなたや他の誰かが言ったことやしたことですか。)
③考えられる対応を検討(どのような行動の選択肢が実行可能ですか。その選択肢を実行した際の良い点と欠点は何ですか。)
④行動の準備(前向きな方法で行動し、対処するための準備を考えましょう。)
(数字で見る)
情報の見極め方を知ろう!
ニュースなどを見ていて怪しい情報に接したとき、虚偽のニュースかどうか、あなたはすぐに判断できますか? 情報の真偽を見極めるためには、日常的に考える練習をしていくことが効果的です。実際に流れている情報や真偽不明の情報を受け取った際は、一度立ち止まって、自分やまわりの環境を冷静に捉えて行動することが求められます。
虚偽の情報でつくられた「フェイクニュース」については、ネット上にも多く発信、拡散されています。うそは事実よりも早く広まるもの。フェイクニュースの方が目新しく、怒りの感情を原動力として拡散するという研究結果もあります。友人の情報は信頼できるという心理が働くことも。以下のチェックリストを活用して、身近な情報について考えてみましょう。
予備知識のない情報の場合
学校や家、職場などで「今みんなの関心を集めている情報」について話し合うことで、同じ情報でも多様な受け止め方、捉え方があることを知り、一面的ではない見方をする機会が作れます。ただし、同じような考え方の人とばかり議論していては批判的な見方を持つことは難しくなります。もし予備知識のない情報に出会った場合は、「そうかな」チェックを活用してみましょう。
参考:「10代からの情報キャッチボール入門」(岩波書店/下村健一著)
情報の真偽について考えるとき
情報の真偽について見極めるには、以下の「だいじかな」リストを活用しましょう。
真偽のわからない情報に対して、第三者の意見を入れて、社会に広がっている情報・ニュースが事実に基づいているか確認する「ファクトチェック(※3)」にも注目が集まっています。
さらに、フェイクニュースを見極めるためには下記の8つポイントを参考にしてみてください。
情報源を検討しよう
さまざまなメディアでも確かめてみよう
情報源は裏付けられている?
ほかも納得している?
これってジョークかも?
自分自身の先入観をチェックしよう
専門家に聞いてみよう
拡散する前によく見よう
参考:「メディアリテラシー〜吟味思考を育む」坂本旬・山脇岳志編著、時事通信社、2022
「当たり前」を見直してみよう!
私たちはだれもが様々な思い込みや偏見を持っています。「バイアス」は、人の思考や判断に偏りやゆがみをもたらす誰もが持つ心の仕組みです。こうしたバイアスの存在を知らずにいると、無意識のうちに他者を傷つけてしまったり、人格や存在そのものを軽んじたりするような言動になり、偏見や差別など人権侵害につながることもあります。
ここではどんなバイアスがあるのかを知り、客観的・論理的に、情報に向き合うための視点を学びます。
〇集団同調性バイアスとは
周囲と同じ行動をとれば安全と考えてしまうこと。自分の判断に自信がもてないときや少数派になることを恐れる心理が背景にあります。「みんなと一緒だから大丈夫」「多くの人がそう考えたり、行動したりするのであれば、それが正しいのだろう」といった考えから、周囲に合わせてしまい、自分の考えとは反する行動をとってしまうことがあります。責任をもって自ら考え、行動することが大切です。
〇確証バイアスとは
自分がすでに信じていることを肯定するように情報を解釈する傾向のこと。たとえば、女性は感情的だと考える人は理性的な女性を認めなくなる傾向をいいます。すでに持っている先入観や仮説を肯定するため、もともとある思い込みを強めてしまいがちです。自分が理解していると思っていることが、実際には理解できていないかもしれないと考えたり、自分の意見に反対する人の視点を調べて検討したりすることが必要です。
〇その他のバイアスについて
- 信念バイアス……情報の内容的あるいは論理的な正しさよりも、自分の信念に当てはまるかどうかで、情報の妥当性や信頼性を判断してしまうこと。すなわち、人やその属する集団が持っている信念は、変わりにくいため、信念に反する意見の信頼度を低く評価することがある。
- ベテランバイアス……経験が豊富であるベテランが、情報を解釈する上で、過去経験が大きな影響を及ぼすことによる判断の偏りである。ここで、ベテランの持つ過去経験と現在の状況が大きく異なる場合、過去の経験は判断を誤らせることがある。ここには、ベテランによる経験に基づく仮説生成とその確証バイアスのプロセスも含まれる。経験豊富な専門家の情報が信頼できるかの判断には、専門家の行う過去の類似経験に基づく類推が適切かどうかの判断が必要である。
出典元「メディアリテラシー〜吟味思考を育む」坂本旬・山脇岳志編著、時事通信社、2022
こちらでもさまざまなバイアスを紹介しています。
情報に向き合う視点
情報に向き合う5つの視点として、以下のチェックリストも活用してみましょう。
参考:「メディアリテラシー〜吟味思考を育む」坂本旬・山脇岳志編著、時事通信社、2022
デジタルメディアリテラシーに
関する用語解説
関する用語解説
※1 メディアリテラシー:
インターネットやテレビ、新聞などのメディアを使いこなし、メディアの伝える情報を理解する能力。また、メディアからの情報を見きわめる能力のこと。
出典元「吟味思考を育むメディアリテラシー」坂本旬・山脇岳志著、時事通信社、2022/TECH-CAMPのブログ(https://tech-camp.in/note/pickup/92091/)
※2 デジタルリテラシー:
デジタルリテラシーは、多様な形態(印刷からビデオ、インターネットまで)のメッセージへアクセス、分析、評価、創造、参加するための枠組みをもたらす。メディアリテラシーは、社会におけるメディアの役割の理解を構築するとともに研究に必須のスキルであり、民主主義社会における市民の自己表現に不可欠なものである。
出典元「吟味思考を育むメディアリテラシー」坂本旬・山脇岳志著、時事通信社、2022/CML(センター・フォー・メディアリテラシー)の定義
※3 デジタル・シティズンシップ:
デジタル・シティズンシップは、欧米など国際社会で広く学ばれている学問領域。
代表的な定義
生徒は相互につながったデジタル世界における生活、学習、仕事の権利と責任、機会を理解し、安全で合法的倫理的な方法で行動し、模範となる (国際教育工学会(2016)
International Society for Technology Education(ISTE)
デジタル技術の利用を通じて,社会に積極的に関与し参加する能力(欧州評議会(2022)
Digital Citizenship Education Handbook Council of Europe
※4 アップスタンダー:
アップスタンダーとは、誰かを支え、立ち上がる人のこと(大人に相談する、励ます、仲裁に入るなど )。反対にバイスタンダーとは、いじめや意地悪な行為、差別行為などを見かけても、それに関わらないようにする人、見て見ぬ振りをする人のこと。米国では、アップスタンダー教育を小学校から高校まで系統的に実施している。
※5 メディアバランス:
メディアバランスとは、健康的な生活の時間(食事、入浴、睡眠、家族との時間など)とメディア利用の時間とのバランスをとること。
- 「何(どのメディア)を何のために、どのくらい使うか」というバランスを考えること。
- メディアバランスは人それぞれ違うことを理解すること。
- 時にはメディアを使わない選択もあることを知ること。
※6 ファクトチェック:
ファクトチェックとは、社会に広がっている情報・ニュースや言説が事実に基づいているかどうかを調べ、そのプロセスを記事化して、正確な情報を人々と共有する営みです。一言でいえば、「真偽検証」です。
出典元「吟味思考を育むメディアリテラシー」坂本旬・山脇岳志著、時事通信社、2022/NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(https://fij.info/introduction)
※7 フィルターバブル:
身の回りから、世界で起きるようなさまざまな重大な事象に至るまで、利用者の嗜好を軸に情報をフィルター(濾過)して推奨することで、それら以外の事象へ無関心、もしくは希薄化を引き起こす可能性。
出典元「吟味思考を育むメディアリテラシー」坂本旬・山脇岳志著、時事通信社、2022
※8 エコーチェンバー:
考えの似通った人同士の主張や、利用者が信じたい情報を収集して推奨することで、一方的に怒りや不合理な信念を募らせてしまう可能性を生むメカニズム。
出典元「吟味思考を育むメディアリテラシー」坂本旬・山脇岳志著、時事通信社、2022
GIGAスクール構想:
文部科学省が発表した計画で、小中学生がICT(情報通信技術)を使いこなせるように教育環境を整えることを目的に、1人1台端末配布などを盛り込んだもの。子どもたちが可能性を広げるためのスキルや知識が学べ、公共の作法を学べるというメリットがある。
(リンク)
- ICTメディアリテラシーの育成(総務省)
- 上手にネットと付き合おう!(総務省)
- インターネットトラブル事例集(総務省)
- 日本ファクトチェックセンター
- 【啓発教育教材】インターネットとの向き合い方~ニセ・誤情報に騙されないために~
参考:
「令和元年版 情報通信白書」「令和3年版 情報通信白書」総務省
「メディアリテラシー〜吟味思考を育む」坂本旬・山脇岳志編著、時事通信社、2022
「デジタル・シティズンシップ プラス」(坂本旬、豊福晋平ら著)大月書店、2022
「バイアス、ミナオス?」鳥取県人権文化センター